<2023年4月10日更新>
2023年夏に向けて 〜 八王子芸妓衆と野口染物店の夏きものVol.3から続く・・・
日本橋「竺仙」の染物を手掛ける八王子「野口染物店」。
同じく八王子「八王子芸妓衆」。
そして我々「荒井呉服店」が2023年夏に向けて取り組んでいる伝統染色技法「長板中形」で染める夏きものの制作。
生地の表裏。ぴたりと柄を合わせる事で、藍と白のコントラストがいっそう明快に美しく映える「長板中形」。
前回の工房訪問の際に見学させて頂いた「豆汁引き」に続き、今回の工程はいよいよ「藍染め」である。
<豆汁引きを終え乾燥させた反物>
<ここからいよいよ藍甕へ>
<反物を入れる藍甕。甕によって藍の濃度コンディションが異なる為、事前の見極めが必要となる>
<染色。斑が出ない様に生地の距離感を調整する>
<漬け込む時間は藍のコンディションによって異なる。この塩梅に経験値が活きる>
<藍甕から引き上げた直後の反物は緑がかった色だが、空気に触れる事で酸化し、徐々に綺麗な藍色に変化する>
<陰干しをして反物に含まれた藍染料を落とす>
<滴る藍。この間も反物の色は変化していく>
<藍甕の周りに吊るされる反物。一仕事終えた様な雰囲気が漂う>
<反物に藍が浸透した後は水洗い。そして防染糊を落とす工程へ>
<手製の小箒で防染糊を落とすといよいよ柄が現れます>
<糊落としと水洗いを幾度か繰り返した後は天日干しへ>
<天日干し。その日の日差しと気温で作業のスピードもまちまち>
<色もますます綺麗な藍色に>
<-竺仙鑑製- の染抜き>
<作業を終えた伸子と染料が残る桶に不思議な美しさが宿る>
長板中形の制作工程もいよいよ佳境に。
ここまでの工程はこの「藍染」に向けて行われてきたが、どの工程も「藍染」を活かす為、美しい染物を作る為に確立された工程である。
「藍」は生き物である。
江戸時代から続く野口染物店の藍甕には200年以上守られてきた伝統の色・藍が入っている。甕の中で発酵を繰り返しコンディションに変化がある為、攪拌をして音を聞き熟成度合いを見極める。
こうした作業を見る度に、野口親子が極上の酒を作り上げる様に愛情を込めて「藍」を扱っている様子が窺える。
藍甕に漬け込む時間や回数は藍のコンディションによって異なる為、レシピを残す事は難しく、代々それぞれの経験値で行われている。
藍甕から反物を引き上げ、水洗いをし防染糊を落とす。そして美しい藍色と柄が現れる様子は実に感動的で、心が躍る。
江戸時代後期、化政文化が最盛期の頃に創業した「野口染物店」。
明治時代、桑都八王子の染織産業の発展と共に栄えた花街を源流とする「八王子芸妓」。
そして2023年に創業111年を迎えた我々「荒井呉服店」。
同じ街で和装や伝統文化に携わるもの同士、ふとした思いつきとちょっとした遊び心で、2023年の夏が楽しさで彩られる様にと始まったこの企画もいよいよ佳境です。
photo&text Ryusuke Ishige