<2023年2月10日更新>
2023年夏に向けて 〜 八王子芸妓衆と野口染物店の夏きものVol.2から続く・・・
日本橋「竺仙」の染物を手掛ける八王子「野口染物店」。
同じく八王子「八王子芸妓衆」。
そして我々「荒井呉服店」が2023年夏に向けて取り組んでいる伝統染色技法「長板中形」で染める夏きものの制作。
生地の表裏。ぴたりと柄を合わせる事で、藍と白のコントラストがいっそう明快に美しく映える「長板中形」。
前回の工房訪問に続き、今回は制作工程の一つ「豆汁引き」の見学に伺った。
<反物を伸子張りして豆汁引きをし易いよう生地幅を一定に整える>
<すり潰した大豆。ここまでは豆腐を作る工程と同じ>
<すり潰した大豆を絞り、豆汁のみを抽出。これがなかなかの力仕事>
<抽出した豆汁>
<豆汁には藍甕から掬い出した藍を少し混ぜる>
<刷毛を使い、反端から豆汁を引く>
<豆汁に藍を混ぜた目的は豆汁引きに斑ががないよう確認する為。美しく仕上げる為の工夫と知恵である>
<匂いを確認する店主。水彩絵の具の様な薄い香りがする>
<豆汁引きの後はそのまま天日干し。雨に濡れぬよう作業の日は天候のチェックも欠かす事は出来ない>
この「豆汁引き」とは、「糊付け - 型置き」の工程を経て防染糊を付着させた反物に、大豆をすり潰し石灰を混ぜたものを刷毛を使って塗りつける作業。この工程を行う事で、防染糊が落ち難くなり、また藍の色付きが良くなるという。
大豆の成分、石灰が染料に及ぼす効果など、よくそこに気が付いたものだと昔の人の工夫と感性にはつくづく感心させられる。
工程を進める都度に、代々引き継いできた染色の技とそこに纏わるエピソードを披露してくださる野口親子。
「長板中形」は江戸時代から続く伝統染色技法であるが、その工程の中には「野口染物店」だけが扱う道具であったり方法が存在し、そうした「独自」はおそらく全国の染色工房にそれぞれ存在するのだろう。伝統染色技法の中にある「工房の独自」には引き継がれてきた工房のドラマもあるようだ。
江戸時代後期、化政文化が最盛期の頃に創業した「野口染物店」。
明治時代、桑都八王子の染織産業の発展と共に栄えた花街を源流とする「八王子芸妓」。
そして2023年に創業111年を迎えた我々「荒井呉服店」。
同じ街で和装や伝統文化に携わるもの同士、ふとした思いつきとちょっとした遊び心で、2023年の夏が楽しさで彩られる様に、今から少しづつ準備を始めている。
photo&text Ryusuke Ishige