新潟県南部・中越エリアに位置する十日町市は国内屈指の屈指の豪雪地帯としても知られ、豊富な雪解け水と自然の恩恵で古くから農業と染織産業が盛んな街である。
麻や苧麻といった植物繊維の織物、そして養蚕による絹織物。この地域の織物の歴史は古墳時代にまで遡るという。
江戸時代、国内主要都市との交易により更に様々な染織製法も伝わり、明治・大正と製造考案の歴史を経て、戦後昭和30年代からは”友禅”をはじめとする染物の生産もスタート。現代は先染めの織物に加え、「振袖」や「訪問着」「留袖」といった後染めの染色品生産の両輪を併せ持つ「きもの」の一大生産地となっている。
今回の”産地紀行”では、現在約20件ほどある十日町の染織工房の中でも日頃から特に懇意にして頂いている「吉澤織物」を訪ね、主に友禅を含む染色の工程を見学させて頂いた。
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まずご案内頂いたのは染料を調合するセクション。
同工房ではこれまでに制作した着物のデザインデータを全てアーカイブしており、要望に応じた再制作に対応できるシステムが構築されている。そうした中で色の再現というのは非常に重要な為、テクノロジーを用いてより正確な調合で再現を可能にしている。職人によって調合される染料と機器で調合する染料を適所で使い分ける。「色彩を含め、意匠も継承されるべき文化の一部」という視点で、その目的を果たすべく合理的な方法も採用している。
<染料を調合する機器>
<色彩データ・こちらは振袖のもの>
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続いて、「引き染」のセクションへ。
ここでは「引き染」という刷毛を用いて地色を染める工程を行なっている。友禅は主に「柄を染めた後に地色を染める」流れとなり、こちらも画像で確認出来るように柄の部分は糊でふせて防染し、その上から刷毛で染料を引いていく。無地場(地色の部分)の多さは着物によって様々だが、ほとんどの場合は反物を端から端まで染める事となる為、通常でも12〜13m、振袖の場合は袖の長さの分更に染める範囲が広がる。
当然、染め始めた箇所から染料は乾いてくるので速やかに手際良く作業を進める必要がある。なお、染料の乾燥の時差は染めムラの原因になる為、作業中は季節を問わず一切空調を使用しないとの事。手際良くどんどん刷毛を進めるが、広範囲をムラなく染め上げるには確かな感覚と技術を要する。
<柄の部分と地色の部分の際にもムラなく染め上がるよう、染料を丁寧に引いていく>
<工房内端から端へ張り伸ばされた反物のなんとも言えない美しさ>
こちらは手描き友禅のセクション。
反物の端から端まで柄の部分を筆を用いて染色(友禅)をするが、柄によっては繊細な筆使いを要する為、生地が動かぬよう固定されるこのような独自の装置を用いている。黒い地色のものは「黒留袖」。緑色のものは「振袖」。共に華やかな吉祥文様を染め描く着物である。
色のグラデーション「暈し」は熟練の職人の繊細な手仕事によって表現される。振袖に関しては特にインクジェット染色のものが台頭する昨今だが、こうした細やかな表現はやはり手仕事ならでは。まさに伝統工芸である。
<反物を順にお繰る装置。友禅の工房では形は違えど同様に動作する装置を用いているところが多い>
<黒留袖の色柄の図案仕様書。色、暈しの塩梅まで細やかな指示が記されている>
<染料のセクションで調合された染料はここでも使用される>
<指示書に沿って友禅を行う>
<細やかな筆使い。黄色い葉脈は防染糊で友禅の後に水元で洗い流される>
<振袖の友禅>
<染めた部分が順にお繰られていく。仕上げた部分を見返しながら暈しの具合などを確認する事もあるという>
<友禅 - 黒留袖 / 動画:荒井呉服店YouTubeチャンネル>
Photo&Text by Ryusuke Ishige